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【ふなっちゃん通信】 Vol.20 富士山の環境保全に向けた 富士山登山鉄道構想 について

富士山の登山鉄道構想…再燃!!

最近の富士山関連のニュースでホットトピックスといえば「いよいよ富士山も噴火するか?」というネタでしょうか。昨年の御嶽山、蔵王などの警戒レベル引き上げ、口永良部島の噴火に箱根の様子もタダならず…ともなれば、誰しも「次は富士山か?!」となりますよね。日本中が噴火や地震といった自然現象に畏れを抱くのは当然ですし、自然に対する畏敬があるからこそこの島国独特な自然観や文化も醸成されてきたわけです。科学的根拠や本当のところの地下の様子は私には分かりかねますので…今回はこの話題からは離れましょう。

そしてもう一つの大きなトピックスと言えば、「富士山に登山鉄道を!」という話題です。世界文化遺産となり、包括的な保全計画や保全状況報告書の提出が間近に迫っている中で、まさに「再燃」という言葉がピッタリな話題です。富士山クリーンプロジェクトにも当初から活動にご協力いただいている我らが野口健さんも賛同している構想ですから、今回はこの件について私なりの意見や感想もちょっとだけ交えて書いてみたいと思います。

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五合目行き富士登山列車(写真はイメージです)

これまでの構想とはちょっと違う…?構想のようです

話題の発端は5月18日に開かれた「世界遺産 富士山の環境と観光のあり方検討会」の席でまとめられた提言。

環境負荷の軽減や通年型観光地への転換、噴火時の観光客 の避難輸送に活用するため、既存の有料道路、富士スバルライン上に新たに登山鉄道を整備すべき

というものです。

しかし富士山の登山鉄道計画は、驚天動地な新規計画ではありません。これまでにもなんどもその計画は世に出てきて、その度に観光と自然保護のせめぎ合いの中で実現されてこなかった構想です。古くは明治時代にその構想はすでにあり当時の鉄道省が計画していましたが、日本山岳会の重鎮小島烏水氏が自然保護の観点から反対して、結局この計画は消滅したのがはじまりです。その後なんどもなんども、鉄道やケーブルカー、五合目までや山頂まで、はたまた富士山の地下など様々に計画されてきたものの、ことごとく計画は頓挫してきました。

その後紆余曲折を経て、富士山には五合目まで車で通行することが可能な富士スバルラインをはじめとする道路が建設され、現在に至っています。そして五合目の観光客数の増加とそれに伴う渋滞やマイカーの排気ガスが問題となり、世界文化遺産登録による保全計画の策定と相まって、再び登山鉄道計画が世に出てきたわけです。

これまでの登山鉄道計画と大きく違うところとされているのは、観光目的の開発ではなく環境負荷の軽減が主目的であることと、新たなルートを開発するのではなく現在のスバルライン上に整備しようということです。

確かに登山鉄道にしてしまえば、五合目までの人的輸送は現在よりも制限されますから、必然的に富士山への入山者数をコントロールすることのできるゲートキーパー的な運用ができるでしょう。またこの検討会での試算では、鉄道に転換することで年間約12000トンものCO2排出量を削減することができる、さらには鉄道だったら冬の五合目観光にも期待できるから雇用の創出もできる、災害時には鉄道の大量輸送能力を活用して避難輸送ができるなどなど、過去の登山鉄道整備とは時代も背景も異なっているので整備を進める議論を始めてはどうか、という提言なわけです。

本当に環境負荷の軽減につなげられるのか?

昨今のマイカー規制によって、黒煙をあげて唸り走る劣悪なバスを利用する観光客が増加(特に外国人観光客の乗ってくるもの)してしまい、結果として環境負荷が大きくなってしまったことは新聞報道等でも大きく取り上げられました。マイカー規制による環境負荷の低減は実証されているだけに、非常に残念なことです。ですからこうした劣悪なバスが富士山域に入ることが困難になるような、例えば五合目に向かうバスの環境性能基準を設けてバスにランク付けをし(すでに東京バス協会等では実施しています)、ランクによって通行料を変えたり、そもそも基準以下のバスは入場できないといったような仕組みづくりをすることができれば、この点は改善することができるはずです。

今回の提言にある「年間CO2排出量12000トン軽減」は、数字的にはかなり興味のあるものですね。一般家庭での年間CO2排出量がおよそ5トン(認定NPO法人気候ネットワーク)ということですから、約2400件分の削減量に相当します。CO2の排出を抑えることができるという点では魅力的かもしれません。ただし、そもそも「公共交通機関のほうが自動車に比べて環境負荷が低い」という一般的な指摘には実はマジックがあって、「乗客一人を一定距離輸送するのにかかる環境負荷」と「輸送する車両(機体・船体)を一定距離移動させるのにかかる環境負荷」は違いますからね。今回の提言がどのような算出基準で提言を表明したのかは、非常に興味あるところです。

そして前段で書いた入山者数の制限については、鉄道の運行方法によって上限も決められることになります。私の勝手な妄想の範囲ですが、以下のようにちょっと考えてみました。

まずは1回あたりの輸送量。山手線の車両の場合1両あたりの定員(サービス定員・立ち客含む)が160人程度ですが、登山鉄道として運用するのであればリュックも背負ってますし下り側ではお土産物もいっぱい持っているでしょうから、そもそもこんなには乗れないでしょうね。富士スバルラインには半径50m以下の急カーブもありますし急勾配の場所も多々あるわけですから、長い車両編成は困難でしょう。かりに4両繋げられたとしても(そんなに長く編成できるかがそもそもわかりませんが)1回あたりの輸送量はおよそ500人程度でしょうか。

途中で駅を設けるか否か(例えば三合目樹海台駅とか四合目奥庭駅とか)によっても運行時間は変わるでしょうが、急カーブを対応するためのスイッチバック方式やらなにやらで、少なくとも自家用車やバスよりは遅いはず。おまけに富士スバルラインの道路の幅で鉄道を敷くわけですから、一部区間を除いてほとんど単線でしょうからすれ違いだってありますよね。現行の五合目行きのバスで河口湖駅からの所要時間が55分ですから、どんなに早くても1時間30分はかかりそうです。

山梨県側富士山五合目の7〜8月の観光客数が合計でおよそ80万人(平成19年)ですが、昨今はもっと多いでしょうね。仮に80万人だとしたら1日平均は約13000人です。この人数を1回600人の輸送量で五合目に上げるとなると大体1日に片道26本の運行が必要になりそうです。運行時間の設定を妄想で6:00から20:00(五合目到着が0時頃になりますが)にしたら20分間隔くらいで運行可能なのかもしれません。

…私は鉄道マニアでも紀行文作家でもないのでそれこそ運行ダイヤのことは全くわかりませんが、私のこんな妄想は実現可能なんでしょうか? でも実現可能だったら、入山者制限にはあまりならない…かな? よくある「乗車率200%」なんてことになったらそれこそ五合目までの旅が不快なものになりかねませんから、やっぱり制限につながるのでしょうか…?

詳しい方がいらっしゃいましたら是非、教えていただきたいですね。よろしくお願いします。

冬にも五合目! そして災害時にも役に立つ!?

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厳冬期の富士山宝永火口(2009年1月16日撮影)

ここは、個人的に正直に言うと疑問点が多いんです。

まずは冬季間の運行について。そもそもの話ですが静岡県側の3道については冬季間は閉鎖されていますが、富士スバルラインは五合目まで通行可能です。もちろん積雪による通行止めがあったりスタッドレスタイヤ必須ではありますが、今だって「行こうと思えば行ける」んですね。多くの方が「好んで行っていない」だけです。もちろん積雪・路面凍結時の運転のリスクが無くなること、のんびり暖かい車窓から富士山の冬景色を堪能できるという素晴らしさ、など登山鉄道になって生まれるメリットはありますが…どうでしょうか?冬季間の山小屋やお土産物屋の営業のためには少なくとも軽油の発電機をガンガン回して灯油もガンガン燃やして暖房を入れるわけですから、せっかく鉄道で減らせたCO2排出量のメリットを少なくしてしまいかねません(そもそも現在は営業されていないのですから、期間的には増大させることになります)。他にも軌道の除雪やすれ違いポイントの凍結、強風や暴風雪による運行停止に伴って発生する観光客の足止めなど、ド素人の私でもちょっと怖い気がしてしまいます。もちろん冬季間の運用を考えての車両・軌道設計でしょうが、現在だってちょっとでも雪が降れば五合目までは行けなくなっているんですから…ね。

乗客人数だって夏場のような人数を冬の五合目に上げるとしたら入山総量の制限の話からは本末転倒ですし、冬場の乗客数減と積雪等による運休日数の増加は期間的な赤字を生む可能性があります。それを補完するためには夏場の乗客数を増やさなければ赤字路線になってしまう…。

なんだか否定的な感じにばかり書いてしまいましたが、こうした疑問点を解消できるだけの方法があれば、冬季間の観光振興という意味だけで言えばこの上ない魅力的な構想であることは間違いありません。

次に災害時の運行についてですが、仮に前述のような片道約1時間30分の20分間隔という運行方法で運用される場合には、富士山駅から五合目の区間内に最低でも上下線で8本(32両)の車両が往来していることになります。単線ですから富士山駅に近い車両から順次下ろしていくことになるわけですが、そもそも災害が地震の場合には軌道の隆起などのダメージがないかの点検が約30km全線にわたって必須ですからすぐには運行再開できません(東日本大震災発生時の首都圏の運行再開も最速で6時間を要しています)。運行再開できない間は避難誘導が優先されますから(大規模地震発生時における首都圏鉄道の運転再開のあり方に関する協議会 報告書より)吉田口や精進口、船津口、滝沢林道など徒歩でも避難可能な経路に避難者を誘導することの方が先決です。さらにこれが噴石を伴う噴火災害だった場合には、軌道上への噴石の除去や火山灰による電気系統のショートの回避なども課題ですよね(当然噴火口の位置も関係してくるので一概にはもちろん言えませんが)。もちろん長年に渡って計画があったわけですから、私のような素人が考えている以上に技術職の方々がしっかりとした対策を講じることとは思いますが、「大量輸送能力を使った避難輸送手段」というには、東日本大震災時などでの各地の鉄道のダメージを思い出すとちょっと疑問と言わざるを得ません。

以上、本当に鉄道には全くの素人の私ではありますが、素人なりに色々と考えてみたことを書き連ねてみました。みなさんはこの「富士山登山鉄道構想」についてどう考えますか? 私は決して否定的ではないですが、もっともっと考えてみたいと思います。そして何よりも今回の提言はみんなでハードの整備面から富士山の環境保全を考えるいいきっかけを与えてくれたと思います。どうか静岡県民のみなさんも「山梨県は観光のことばっかり考えてるから」などと言わずに一緒に考えてみませんか!

だって富士山は一つなんですから。

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