【ふなっちゃん通信2016】Vol.3 富士山と台風

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富士山のマイカー規制も山梨県側吉田口では8月31日に終わり、須走口、富士宮口の規制も9月10日頃までとなり、いよいよ今年の富士登山シーズンも終わりを迎えますね。今年は小縁年という富士登山をするのにはとても御利益のあると言われる申年だったので、多くの方々が富士登山を楽しまれたのではないでしょうか(ちなみに最も御利益のある「御縁年」は、60年に一度です。次の御縁年は2040年ですよ)。

お盆を過ぎる頃になると、富士山に限らず台風の話題が多くなりますよね。今シーズンはこの原稿を書いている8月25日現在、数は多くないものの発生場所がいつもより北だったり日本の南でウロウロしながら勢力を増していったりと、なんだかいつもの年に比べて台風の進路やその被害に悩まされそうです。私も今年何度か富士山に登っていますが、8月16日には吉田口八合目で台風7号の影響を考慮して下山してきたりしました(写真1枚目:東側から帯状の雲がみるみるうちに西進してきました)。その時の気象衛星画像が右にありますが、こうした情報を得ることができるようになったおかげで、富士登山中の状況判断は本当に助かっています。

 

 

これまでに今年の台風で多くの被害に合われた地域の皆様もいらっしゃいます。そんな日本の台風被害を減らそうということで、台風と富士山は切っても切れない深〜い関係があるんですよ。皆さんご存知のことかもしれませんが、このシーズンだからこそ、あらためて。

 

富士山と気象観測の歴史については、明治時代の1895年に富士山の冬季初登頂を果たした気象学者の野中到氏と、妻の千代子夫妻による日本で初めての高地気象観測が有名ですよね。つい最近も2014年にNHKでもドラマになり(「芙蓉の人 富士山頂の妻」)、原作の新田次郎「芙蓉の人」は富士山を描いた小説の中でも私も大好きなもののひとつです。

そんな先代の偉業から数十年、1959年にかの有名な伊勢湾台風が日本に多くの被害をもたらしました。これを機に日本に襲来する台風をできるかぎり早く探知し、その被害を少なくするように備えようと、日本一の山頂にレーダーを設置しようという計画が始まりました。なぜ富士山頂だったかという理由は極めてシンプル。「全方向にわたって山岳などによってレーダーの電波が遮られないから」。しかしその設置運用については当然、数々のドラマチックな出来事がありました。そもそも富士山頂にレーダーを設置するための資材をどうやって運ぶか、本当に東京の気象庁までレーダーで補足したデータを電波で飛ばせられるのか、などなど。そのすべての難題をクリアして、1964年に剣ヶ峰のシンボルともなった富士山頂レーダードーム、そして富士山測候所が建設され運用を開始しました。余談ですが、1964年といえば東京オリンピックが開催されて東海道新幹線が開業して、富士山レーダーができて私の大好きなかっぱえびせんが発売されて…と、とにかくすごい1年ですよね(笑)

観測半径最大800kmともいわれる富士山頂のレーダーは、当時の高所気象観測の中では群を抜いていたそうです。実際、それまでの高所での気象観測はアメリカに設置されていた標高2600m地点の観測所のレーダーが最高地点だったらしく、世界記録を一気に1100m以上抜いたことになります。

設置計画から運用に至るまでのドラマチックな出来事の数々は、先述した新田次郎が「富士山頂」という小説で事細かにその当時の様子を伝えてくれています。なかなか目にする機会も少ないのですが、この小説を原作にした映画が石原裕次郎によって演じられたりもしています(23回忌を記念して放送されたんですよ。DVD化されていないので私は録画してあります(笑))

その後、1999年まで富士山のレーダーは日本に襲来する数々の台風をかなり早い段階から探知し、日本の天気予報の精度は飛躍的に向上しました。そして気象・防災情報の提供のために尽力してくれました。気象衛星の技術力も発達したこともあり、富士登山者にはかなり惜しまれつつも同年富士山頂でのレーダー観測は廃止され、2001年には「鳥籠」と言われたレーダードームは富士山麓に降ろされました。2004年からはレーダー観測ではない無人観測が今もなお続いており、レーダーのなくなった富士山測候所はNPO法人富士山測候所を活用する会によって現在でも高所気象研究の様々な分野で活用され続けています。もちろん、現在でも富士山頂に立てばレーダーのない富士山測候所の目の前で記念写真も撮れますよ。

降ろされたレーダードームはというと、御殿場市と富士吉田市の激しい誘致合戦の末、現在「富士吉田市立富士山レーダードーム館」として移設され、体験学習施設として楽しむことができる施設となっています。富士山頂の環境(マイナス5°C、風速13m)を体験する部屋があったりしますから、富士登山をする前には行ってみるといいかもしれませんね。もちろんレーダードームそのものが見れますし、ドームの中に設置されていた機器も展示されてますから、マニアでも楽しめますよ。

※ 富士山レーダードーム館 (毎週火曜日休館)

【入館料】 大人:610円 小中高生:410円 5歳以下:無料 各種割引があります

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台風という、夏になれば日本中をこれまで幾度となく悩ませ多くの方々に被害をもたらした気象現象に対して、日本人は富士山という日本一の舞台で、日本が世界に誇る技術力とともに立ち向かっていきました。その歴史の中にはここでは書ききれないほどの多くの方々のご苦労と犠牲、そして叡智を富士山頂に結集させることで、台風をいち早く探知することができるようになりました。日本の気象予報の発展は富士山なくしては語ることができないんですね。

ちなみに、今回の文章で何度も出させていただいた新田次郎氏は数多くの富士山に関する小説を書かれていますが、何を隠そうこの方は小説家の前に中央気象台(現:気象庁)の職員で、富士山測候所の建設に携わったご本人なんです。まさに台風に立ち向かったその人が書いたものですからリアリティが違います。秋の夜長に是非、読んでみてはいかがでしょうか?

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