【ふなっちゃん通信】Vol.22 身近にある施設にも行ってみませんか?

今年の夏休みはみなさんどうお過ごしでしたでしょうか? 私は自分の活動で思いっきり夏を満喫することができました。とにかく富士山麓に暮らす子どもたちと過ごしていない週がないくらい、富士山のフィールドに出て楽しみました。キャンプに外遊び、もちろんごみ拾いもしましたし、20mもの流しそうめんでお腹いっぱい。そんな私もやり残したことが…今年はまだ富士山頂に立っていないんですよねー。今年は登山者数も減少し、登山道を快適に登れる絶好のチャンスのようでしたので、時間を見つけて行こうかなーとは思っています。この辺の今年の富士山の夏のレポートはまたの機会に書くことにして…

仕事のお休みが取れたらお出かけプランを立てることも多いと思いますが、そんな時にはみなさんどこを思い浮かべますか? 多くの方々が自分たちの暮らしているエリアから離れた場所に行くことが多くないでしょうか。自分たちの暮らしている場所には「いつでも行けるし」「せっかくなんだから」という感じで、行ったことがない施設や場所が、身近にたくさんありませんか?私の暮らしている山梨県の河口湖には、観光地らしく本当に数多くの施設がありますが、恥ずかしながら行ったことのない場所がまだまだたくさんあります。今回はそんなことをちょっと書いてみようかと思います。

富士山と富士山麓は日本最大面積のテーマパークです

「どこまでが富士山なんだ?」という命題はさておくとして、富士山を含む富士山麓全域は日本で最大面積を誇る、「富士山」というテーマパークということができます。一般的にテーマパーク内には個別に楽しむことができる様々なアトラクションがあり、飲んだり食べたりすることができる場所がありますよね。富士山で言えば富士山に関わる様々な施設がたくさんあるわけですが、それらは個別のアトラクションと言い換えてもいいでしょう。どの施設も富士山というテーマを軸に、富士山に訪れてくれる多くの方々に楽しんでいただこうという施設ですが、一方では県内に住んでいる地元の方々にはあまり利用されていない、というか上述のように「いつでも行けるし」的に利用したことがないというところが多いんですよね。なんとなく「学校の社会科見学や富士山学習で行った時がある」以来、なかなか足を運ばないものです。

そんな場所が静岡県にも山梨県にも、たくさんあるんですよ!今回はそのほんの一部の施設だけ、ご紹介させていただきますね。

1)富士山樹空の森(静岡県御殿場市)

御殿場市の東富士演習場のすぐそばにあるこの施設は、なんといっても小さな子どもたちが楽しめる遊具がいっぱいある「冒険の丘」や、広い芝生広場があって富士山を眺めながらのんびりすることができる素敵な施設です。あと目玉は館内にある「天空シアター」でしょうか。富士山麓の模型を立体スクリーンにして、富士山麓の春夏秋冬やご来光の時間の富士山の姿をCGで見ることができます。また、温泉施設が併設しているので実は一日中いられる楽しい場所です。

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富士山 樹空の森(静岡県御殿場市)

2)富士山資料館(静岡県裾野市)

富士サファリパークにほど近くにある、昭和53年に開館されたとてもノスタルジックな博物館施設ですが、館内の展示には非常に古い貴重なものが多く、特に1707年の宝永噴火の様子を克明に記載した非常に貴重な資料が収蔵されていたり、昔の民具や農具といった郷土資料が展示されているので、非常に勉強になる施設です。

3)富士山科学研究所(山梨県富士吉田市)

富士山の自然環境・防災に関することについて科学的に探求し続け、研究成果を蓄積している研究施設ですが、同時に環境教育活動などを通じて広く研究成果を公開している施設です。定期的に富士山に関する様々な視点の公開講座やシンポジウム、また無料で参加できる自然観察会等のイベントも開催されています。

4)ふじさんミュージアム(山梨県富士吉田市)

現時点(2015年8月末現在)で最も新しい富士山に関する情報発信施設です。もとは富士吉田市歴史民俗博物館なので収蔵資料も魅力的なものが多いのですが、江戸時代に隆盛した富士講による富士登山に特化した富士山の信仰の歴史を知ることができる施設です。プロジェクションマッピングやアニメーションなどの新しいデジタルコンテンツを駆使した展示も楽しむことができます。

5)富士河口湖町生涯学習館(山梨県富士河口湖町)

富士河口湖町にある一般でも利用可能なごく普通の図書館施設ですが、富士山の歴史や民俗のみならず、産業や社会、哲学といったあらゆるジャンルについての魅力的な蔵書が非常に数多く収蔵されている驚きの施設です。富士山の資料を探すならここのデータベースを検索してみると見つけられるかもしれませんよ。

6)富士山環境交流プラザ(静岡県富士宮市)

展示資料などは特にありませんが、様々な面で環境に配慮した設計によって建てられており、静岡県側の環境教育や森林保全活動を行う際の拠点施設として運営されている施設です。環境教育活動や森づくり活動なども実施されていますが、毎年11月に開催されている「プラザまつり」も、多くの出展がある楽しいイベントの一つです。

7)富士山レーダードーム館(山梨県富士吉田市)

その名の通り、1964年から1999年までの35年間に渡って日本の台風観測の拠点として運用され、当時の世界最大のレーダー施設だった富士山頂富士山測候所のレーダードームを移設した展示施設です。上記で紹介した様々な施設とは異なり、富士山における気象観測の歴史や富士山の気象に関する展示が非常に面白い施設となっています。富士山頂で実際に使用していた観測機器に触れられたり、富士山頂の風速を体感できる展示もあります。

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富士山レーダードーム館(山梨県富士吉田市)

8)生物多様性センター(山梨県富士吉田市)

環境省の施設で、富士山に特化されたものではなく日本をはじめとした様々な生物多様性全般についての展示や調査の取り組みについての紹介がありますが、それほど多くの展示が常設されているわけではありません。しかし、ここには標本収蔵庫という普段は一般公開されていない60000点以上の標本が保管されている場所があり、毎年1度だけ特別に公開される「生物多様性まつり」も開催されています。日本の希少種が特別に保管されている「X-room」というまるで映画に出てくるような特別収蔵庫もあるんですよ!(私も一度しか入ったことがありません)

この他にもクラフト製作や体験活動を提供している施設はたくさんありますし、何よりも富士山のフィールドを素材にした様々なエコツアープログラムやフットパスプログラムを提供している団体も数多くあるのが、富士山麓なんです。

そして、来年度の完成・開館を予定している重要施設が、両県に整備される予定です。

世界遺産センターはどんな施設になるのでしょう?

富士山が世界文化遺産の登録リストに掲載されて3年目になりますが、世界遺産としての価値を保全する中心的機能を担うことになるであろう、通称「世界遺産センター」が、静岡県・山梨県共に建設されることになっています。山梨県側(富士河口湖町内)ではすでに着工し、来年6月にオープンする予定で着々と工事は進められていますが、静岡県側(富士宮市内)の方は入札不調によりまだ着工されていません。これについては…はてさてどうなることやら?

そもそも世界遺産センターとはどんな機能を有する施設なんでしょうか?ここで書く「世界遺産センター」とは、ユネスコの世界遺産委員会の事務局として機能している組織の名称ではなく、日本各地で登録された世界遺産のビジターセンター的機能を持った施設のことを指します。あらかじめこの点は誤解のないように。

さて、世界遺産センターといえば屋久島や知床、和歌山など、日本各地の世界遺産のあるところには必ず建設(または既存施設を改修)される建造物です。上記のようにビジターセンターとしての機能を担うことを目的としているところが多いので、当然登録された構成資産についての紹介や世界遺産登録までの経緯の紹介をはじめとした様々な展示がされているわけです。世界遺産ですから海外からの来訪者に対してのインフォメーションセンターとしても機能しなければなりませんし、施設運営のためには経済的な自立性も必要ですからお土産物などの販売や飲食物の提供もあるわけです。

富士山の場合には静岡・山梨両県合わせて25もの構成資産が山麓全域にわたって点在しているため、ほかの世界遺産センターに比べて取り扱う面積も情報量も非常に多く、また地理的条件も踏まえて両県に別々に建設されることになりました。展示資料や設備に関しては、当然新しいデジタルコンテンツ等も含む魅力的な展示がされるでしょうし、個々の構成資産に関する詳細な展示もさることながら、おそらく総合博物館的な要素(誤解を恐れずに書くと「広く浅く」)が強く出るのではないかと私は思っています。もちろん上記のように外国人観光客をターゲットにした表記はもちろん、ガイダンスも用意されることでしょうし、構成資産をめぐるツアープログラムの発着場所としても機能することでしょう。

ですが私は、それ以上に世界遺産センターにはぜひ、富士山を楽しむ人々にとってある種の緊張感を生み出すような機能を備えてもらいたいと思っています。「たくさんの人が訪れてくれれば観光産業も潤う」といった世界遺産登録による副次的なメリットのことは世界遺産センターには必要ありません。

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といった感じの世界遺産エリア利用に関するガイダンス機能を全面に出した施設にしてほしいと思っています。「そんなの当たり前」「ほかの施設でもやってることでしょ」と言われる方もいらしゃるかもしれませんが、実はこれがなかなかできていない。例えばよくある博物館の展示には、その展示内容にまつわる「はじめに」というエントランス(いわゆる導入部分)があり、展示の概略が文章や映像等で展示されているところを過ぎると、本展示に入っていけるというのがあります。あとは展示箇所にある「撮影禁止」「飲食禁止」「順路」「お手を触れないでください」などの警告・表示に従ってご覧いただければ結構です、というわけですね。ですがこれだけでは不十分なのです。世界遺産登録されて3年が経過し、様々な点で保全に対する取り組みが進む一方で、利用者の善意やモラルに任せた保全方法(ごみは持って帰ってもらう、薄着での登山は控えてもらう、などなど)だけでは「管理」の意味で不十分であることも指摘され始めています。

入山を含むエリア利用に対する義務と受益者による負担についてのしっかりとした明確なレクチャーがあり、信仰の山として登録された富士山についての畏敬の念と富士山への愛着を醸成することのできる、そんな施設として機能してほしいですね。

私たち一般市民ができることは、そうした施設が「観光客たちのためだけのもの」とは決して思わずに、まずは足を運んでみてその施設の魅力や課題を見つけることが、結果的に富士山の保全につながっていくと思います。これは世界遺産センターに限らず、既存の施設についても同様ですから、行ったつもりにならずにお出かけプランの選択肢の一つにあげてみてくださいね。

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