【ふなっちゃん通信】 Vol.5 富士山の森は雪の中

10月の富士山クリーンプロジェクトの活動以来、しばらく活動の成果や不法投棄の話題ばかりでしたので、今月はちょっと話題を富士山の森の中に変えてみようかと思います。

みなさんはこの季節に富士山の森の中に入ったことはありますか? 小さなお子さんがいらっしゃるご家庭なら、雪の降った週末あたりに水ヶ塚で雪遊びをしたりしたこともあるかもしれませんね。もちろんスキー場で楽しむこともあるでしょうし、なにかの用事で富士山麓の雪道を通行することもあるかもしれません。ですがなかなか雪の森の中を歩くということはないのではないでしょうか。

冬の森の中はキンと冷え切った空気に包まれた静寂の世界と言っても過言ではありません。日陰の雪はいつまでも溶けることなく積もり、草花たちは堅い冬芽に包まれ、樹皮の苔は乾燥に耐えながら春の芽吹きの頃をジッと待っています。ジョウビタキなどの冬鳥たちがわずかに出している声や、木の枝に積もった雪が落ちる音が森の中に響きます。

そんな真っ白な雪と常緑樹の緑しかないモノクロのような世界に、長靴やスノーシューを履いて雪に足をとられながら歩いてみると、私たちの想像以上に動物たちが森の中で活発に動き回っている様子を発見することができます。

動物や虫たちが森の中で生きている証拠、これを「フィールドサイン」といいますが、何も難しい知識が必要なわけではありません。誰でもきっと森の中に入るや否や、自然のありのままの姿を見つけられることでしょう。代表的なものは雪の積もった地面に残された動物たちの「足跡」です。

冬のフィールドサインを見つけるのは簡単! あとは観察と想像力!

1枚目の写真は、先日富士山の一合目付近で撮影したものですが、みなさん誰の足跡なのかわかりますか?

きれいに平行に3列、進行方向も画面左下から右上に向かって一直線に向かっています。足跡そのものは非常に小さくて、ひとつの足跡は長さ約1cm。それが2つ並んでいて、真ん中にうっすらと線が一本入っているのがわかります。歩幅がそれなりにあって、なおかつほぼ等間隔で足跡がついているので、ある程度の速度で走っているのかもしれません。

観察はもうここまで。あとはみなさんの想像にすべてお任せします(笑)。

だってその場で動物たちが足跡をつけている現場を見ていたわけではないのですから、確かなことは何も言えません。以下は私の勝手な妄想ですが、しばらくおつきあいください。

足跡が小さいので小さな生き物ですよね。前足も後ろ足も同じ場所に着地していることから、きっと他の生き物にできるだけ足跡がばれないように残しているんだと思います。でも後ろ足を着地させるときにどうしてもお尻についている細くて長いしっぽが、雪の上に残っちゃう。たまらなくカワイイ! 富士山の森の中なので、アカネズミかヒメネズミかな…?

このフィールドサインを発見した場所が森の中で切り開かれた明るく見通しのいい場所でしたから、きっとフクロウたちにも見つかりやすい場所です。ここを横断しているわけですが、捕まるわけにはいきませんからね、そりゃもう必死。きっと3頭の森のネズミが、開けた場所の向こうの森に向かって、フクロウから逃れる練習を兼ねて度胸試しでもしたのでしょうか。足跡は画面右上に向かって3列とも茂みの中に到達していたので、この3頭はこの場ではフクロウに捕まってはいないと思います(笑)。

野ネズミの足跡

(森のネズミのフィールドサイン 2014年1月16日撮影)

2枚目の写真はニホンジカの足跡です。同じく一合目付近で撮影しました。

ニホンジカはどっしりとした重みのあるボディなので、足跡も深いですね。イノシシが似たような足跡をつけますが、脚がニホンジカよりもかなり短いので、雪深い場所では足跡が深く残ることがあまりありません。細く深いのは、ニホンジカがゆっくりと歩いた跡だと思います。

写真はひとつの足跡を拡大したものですが、この周りには非常に多くの足跡がありました。なかには形が同じで大きさが半分くらいの小さな足跡も。親子の群れでしょうか。大きな体で何頭もほぼ同じ道を通過することがあるため、ニホンジカのフィールドサインはよく直線的になっています、つまり獣道。しかも一つ一つの足跡が深いので、雪の中で見つけるのは本当に簡単です。足跡をたどって森の中に入っていくと、たまに森の中で遭遇することもできるくらいです。ニホンジカに出会うと、ある一定の距離までは向こうもジッとこちらを見つめて警戒していますが、「もうちょっと」と思って近づいてしまうとお尻の白い毛を逆立てて、蜘蛛の子を散らすようにピョンピョン逃げ出します(お尻の白い毛を逆立てるのは、他の仲間に危険を知らせるサインなのだそうです)。この場所のフィールドサインはそんな飛び回ったりしたような跡はなかったので、のんびりと富士山の森の中の葉や樹皮を食んでいたのかもしれませんね。

ニホンジカの足跡

(ニホンジカのフィールドサイン 2014年1月16日撮影)

その他にも冬のフィールドサインはいっぱいあります

フィールドサインは森の中に住んでいる生き物たちの痕跡ですから、足跡の他にもたくさんあります。葉を落とした低木や草の陰には昆虫たちが越冬のためのマユ(カマキリのものやガのさなぎなんかがよくあります)し、雪のないところに落ちている落ち葉を少しかき分けてみると春を待つテントウムシなどの小さな虫たちが体を寄せ合っていたりもします。特に雪の上で見つけやすいのはウンチ。鳥のものも哺乳類のものも、真っ白な雪の上に落ちていると非常に見つけやすいですね。

私はウンチが非常に好きでして(誤解しないで下さいね)、森の中で見つけると持ち帰って、水の中に溶かしてみたりするんです。食べているものがわかるので。キツネのウンチなんかを見つけると、食べた野ネズミの骨格がそのまま残っていますし、テンのウンチからは様々な木の実が出てきます。それでまた色々と妄想するんです。興味のある方はぜひ私と水をもって森の中に出かけましょう! ご連絡をお待ちしております(笑)

雪のない季節にフィールドサインを見つけるのはちょっとコツが要りますが、この季節は森の中でこうした生き物たちの痕跡を見つけやすい季節ですから、森の楽しみ方のひとつを学んでみるのはとても楽しいですよ。

あ、ちゃんと暖かい服と濡れない靴で、ね。

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