【ふなっちゃん通信】 Vol.6 とにかくすごい大雪でしたが…

2月14日夜から降り積もった記録的な大雪。この度の積雪に伴いみなさんのお住まいの地域でも大小の影響があったかと思いますが、いかがでしたでしょうか? とりわけ私が住んでいる山梨県では、甲府市観測史上初となる114cm、富士山の麓の富士河口湖町ではなんと143cmにもなる積雪量が観測され、山梨県と他県を結ぶ主要道路がすべて通行止めとなってしまいました。まさに「陸の孤島」。交通が寸断されたことにより食料品を中心とする生活必需品の供給も絶たれてしまい、いわゆる普通の生活に戻れるまで1週間以上もかかってしまった地区もありました。

自衛隊をはじめ新潟県などの雪国のみなさんからの除雪や、孤立地区からの住民救出など様々な支援、そして地域住民による共助によって日常生活に関してはとりあえずひと段落しました。しかし大雪被害は、観光客の減少はもちろんのこと、山梨県の特産でもあるブドウやモモをはじめとする農産物など甚大で、今後影響がどのようになるかを想像するだけでも大変なことになりそうです。

かくいう私も積雪時からしばらくは、自宅周辺はもちろんのこと、雪崩などによって孤立してしまった富士山クラブもりの学校のある富士河口湖町根場(ねんば)地区の除雪のお手伝いをしたりして過ごしていたため、腰が…(泣)。ふなっちゃんは北海道生まれなので、積雪量そのものにはさほど驚くことはありませんが、富士山周辺の地域にとってはこれほどの大雪がまとまって降り積もった経験はなく、私の周辺だけでもみな声をそろえて「こんなことは初めてだ」と言っていました。

声には出せませんが(もしかしたら出しているかもしれませんが)、富士山麓に生息している動物たちも同じように感じたのではないでしょうか。冬眠生活をしている虫たちやコウモリ、ツキノワグマたちは目覚めた時の雪の残りっぷりにビックリするのかもしれません。森の中をせわしなく走り回っているニホンリスは、降りしきる雪の中「なんじゃこりゃぁ~?!」と騒いでいたかもしれませんし、落ち着き払ったイノシシたちなどは「いつまで降るんだろう…」とジッとして嘆いていたかもしれません。冬の富士五湖に飛来する多くのカモたちは、湖面を凍結させた氷と降り積もる雪に直面して「とりあえず寒いからどこか行く?」なんて会議を開いたかもしれませんね。そんなことを想像すると、動物たちも私たち人間も感じていることは案外同じかも…なんて思ってしまいます。

とにかく今回の雪の量はすごかった。それは、人間の生活圏でも森の中でも一緒です。

 

 雪がいっぱい降ったのでフィールドサインについてちょっと補足

ところで、前回のコラムで「フィールドサイン」という、その森に生息している生き物たちの生きている証を見つけることについて書きました。その中で特にニホンジカの足跡の画像もご覧いただきましたが、今回はこれについてちょっと補足しつつ、ニホンジカのことについて書いてみたいと思います。

そもそもニホンジカは、富士山の森の中では中腹あたり(標高1000~2000m程度)に多く生息していますが、冬には降り積もる雪が深いと食べるものが隠れてしまったり、その細い足が埋まりやすく移動しづらいといったこともあって、比較的低い場所に移動してきます。つまり私たち人間がちょっと足を延ばして森の中に入ってトレッキングする程度のエリアでも、その足跡など(フィールドサイン)を目撃できる機会が増えるんですね。

今回の大雪では森の中にもかなりの量の積雪があったので、3月中でもニホンジカのものに限らず様々なフィールドサインを発見しやすい環境になったと言えるでしょう。

140228ニホンジカによる食害

(ニホンジカのフィールドサイン(食害:写真中央の樹皮) 2014年1月20日撮影)

そんなニホンジカは、全国各地でその数が増えすぎてしまい様々な問題を引き起こしてしまっていることをご存じの方も多いと思います。全国各地で森林保全のために植樹した幼木の芽が食べつくされてしまう被害があります。また南アルプスでは野生の高山植物を食い尽くしてしまうほどニホンジカが増えすぎてしまい、絶滅の危機に直面させられている種も数多くあります。富士山麓でも推定ですがおよそ1万頭のニホンジカが生息しているといわれていますが、明らかに適正な生息数を超えてしまっていて、こうしたニホンジカによる食害が拡がってしまっているのが現状です。また、ロードキルといわれる動物たちと自動車による交通事故も富士山麓に走る様々な道路で多発してしまっています。

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(富士山に生息するニホンジカ 2009年12月19日撮影 )

「画像提供:富士山クラブ」

ニホンジカたちはどうなった??

ニホンジカたちがこれほどまでに増加してしまったのには、捕食者であったニホンオオカミが明治時代までの人間による乱獲で絶滅してしまったことや、地球温暖化によって冬の平均気温が下がらず、低温や積雪による自然淘汰数が減ってしまったことなど、様々な理由があると言われています。

現在、こうして増加してしまったニホンジカの個体数調整のために、猟友会等によって管理捕獲が実施されたり、樹木をニホンジカの食害から守るための防鹿柵が設置されたりと、様々な取り組みが全国各地で実施されています。まったく人間の勝手だというご意見も当然あるかと思いますが、一方で現在の自然を守っていくためにはこうした取り組みも必要だというご意見もあるでしょう。私たち人間が自然環境に対してできることは、ごくわずかなことなのかもしれませんが、それでも自然環境と共存・共生していこうとすることはやっぱり大切ですよね。もしかしたらそれは、人間が勝手に汚したごみを拾う行為にもつながるのかもしれません。

それにしても今回の大雪。ある意味では自然による個体数調整が起こったのではないかと私は思っています。増えすぎた特定の種に対して、自然が特定の方法によって個体数調整をするはずもありませんが、大量の積雪には弱いニホンジカにとって、低い場所まで移動してきたにもかかわらず、その場所でさえも埋まってしまうほどの積雪が発生したわけです。自然淘汰の機能を果たした可能性は、十分に考えられるのではないでしょうか。

私も実際にそうした個体を確認したわけではないのであくまでも憶測にすぎませんが、雪解けを待ってみたいと思います。もしも春の森の中で、横たわるニホンジカを見つけることがあった時には、ちょっと今回のコラムを思い出してみて下さいね。

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