【ふなっちゃん通信】 Vol.10 野生動物の交通事故死

富士山世界文化遺産登録から1年が経過して

6月22日、富士山は世界文化遺産に登録されて1年が経過しました。この間、ユネスコから出された未曾有の宿題である保全計画の早期改善について、様々な点で新たな施策が始まったり、またこれによって新たな問題が生じてきたりと、富士山とその周辺の構成資産を巡る動きは慌ただしく過ぎています。入山料の徴収、開山時期やマイカー規制期間のズレ、湖畔の動力船、ブル道や導流堤などの諸問題はもちろん、観光バスの乗り入れ増加に伴う松枯れの増加など、富士山におけるこれらすべてを含めた包括的な保存管理計画の未成熟さをあらためて浮き彫りにされた1年と言っても過言ではないでしょう。宿題の提出期限が刻一刻と迫る中、既得権益と新たなルール作りとのせめぎ合いは、まだまだ続くことが容易に想像できます。私たち日本人にとっての心のふるさととも言える富士山の行く末は、他人任せにするのではなく、私たち市民による絶え間ない注視と具体的な動きによる「常識のアップデート」にかかっていると思います。

さて、そんな諸問題山積の中ですが、富士山麓の生活者の一員としてのふなっちゃんにはこうしたこととは別に、最近どうしても気にかかっていることがあるんです。みなさんは、野生動物たちが道路で轢かれてしまって死んでいるところを見つけたことはありませんか?しかもそれは、この1年でなんとなくですが増えている気がしませんか?

富士山麓に棲息する生き物たちと「ロードキル」

富士山には、例えばイリオモテヤマネコやヤンバルクイナなど、その生き物が棲んでいる地域で独特の進化を遂げてきた珍しい生き物たちはあまり棲んでいません。日本全国でどこでも見ることのできる、ごくごく普通の野生動物たちがたくさん棲息しています。例えばそれはニホンジカであったり、ツキノワグマであったり、キツネやタヌキはもちろん、ヤマアカガエルやアカネズミなど、お手持ちのどんな図鑑にだって載っている動物たちです。

富士山に生息している主な脊椎動物たち

両生類

4種類

アズマヒキガエル、モリアオガエル、ヤマアカガエルなど

爬虫類

6種類

ニホントカゲ、ニホンカナヘビ、アオダイショウなど

鳥類

90種類

キジ、シジュウカラ、フクロウ、オオタカなど

哺乳類

35種類

ニホンジカ、ツキノワグマ、テン、ヒメネズミ、ヤマネなど

平成15年環境省生物多様性地域調査「富士北麓地域」報告書より

そして富士山は海抜0mから3776mと、日本でも最もスケールの大きな部類の広大な生物の棲息域が上から下まで広がっている地域でもあります。上記の生物多様性調査報告書の総括でも、富士山の生態系の価値は「いるべき場所にいるべき生物がいる」「我が国を代表する生態系多様性地域と結論づけられる」と総括されているのですが、こうした貴重な生態系を脅かす様々な問題にさらされています。

その内の一つに、野生動物の交通事故死(通称ロードキル)があります。1枚目の写真は、青木ヶ原樹海を横断している国道139号線で撮影したものですが、よく見ると腹部が大きく、また乳が張っていることから、出産間近と思われるニホンジカのメスが車と接触し道路脇に横たわって死んでいたものです。

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2枚目も同じく国道139号線でのアナグマの事故死ですが、右後脚から骨が飛び出してしまっています。轢かれた時にこうなってしまったのか、死んでしまった後に踏み潰されたのかは定かではありませんが、いずれの現場も非常に痛ましい状況でした。

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こうしたロードキルは、野生動物たちへの直接的な被害はもちろんですが、私たち人間にとっても非常に危険な事故です。急に暗がりから飛び出してきた動物をかわそうとして急ハンドルを切ってしまったり、また急ブレーキで後続車との接触を招いてしまったりしてしまいますし、イノシシやニホンジカといった大型の哺乳類と接触してしまうと、自動車のボディへのダメージは相当ひどいものです(実際に廃車になってしまうほどの衝撃ですし、車両保険以外では自動車保険も効きません)。オーストラリアではやはりカンガルーのロードキルが多発していますが、カンガルーをかわすことで起こる二次的被害を防止するために、自動車のバンパーの前に「カンガルーバー」と呼ばれる強固なパイプを装着している車が多くありますが、「危ないから轢いてしまう」というのもちょっと違う気がします。

日本では道路標識に「動物注意」(余談ですが、地域によって表示されている動物が違うのをご存じですか?)がありますし、一部の先進的な地域では「アニマルパスウェイ」と呼ばれる道路を野生動物たちが安全に横断することが可能な橋やトンネルを設置しているところもあったりと、インフラとしての整備は比較的進んでいると思います。

しかし、大切なことは森に棲息している他の生き物たちへの「思いやり」だと思うのです。富士山麓に通っている道路の多くは、そもそも野生動物たちが棲んでいる森を切り開いてできています。人間が通るのだから動物たちはここを横断するんじゃないとか、横断できないようにしてしまうとかではなく、私たちが森の中を通行するときにちょっと気を使う、思いやることができれば、野生動物たちとの共生はもっともっとできると思います。野生動物たちは他者を思いやることはできません。思いやりは私たち人間に与えられた、生物としての特殊な技能ですから。

 いよいよ本格的な夏の行楽シーズン、早朝や夕方、また深夜の車移動も数多くあることと思いますが、動物との接触事故を起こしてしまっては、楽しさだって半減どころか台無しになってしまいます。市街地以外の道路は信号も少なく快適に走行しやすいものではありますが、生き物たちのことをチョット気遣ってアクセルをゆるめて走行してくださいね。

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